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学校からのお知らせ

Go for it! (48) ~ 「選ぶ」か、「辞める」か
2018年11月09日

 Go for it! (47)に引き続き、日本語弁論大会で思い出したことです。弁論を「人生は選択の連続である」で始め、「ベストの選択を」で締めくくった3年生がいました。

以下も、ずいぶん前のお話です。

 

 

A中学校のBくんは、希望に燃えて大分市内の陸上の名門校に進んだ。中学時代、全国駅伝に選手として出場し、これから始まる競技生活に胸をふくらませていた。

Bくんは、小さい頃から走ることが大好きだった。しかし、高校での練習はなまぬるくない。頑張るものの、他の選手のスピードについていくのがやっとだ。試合でも結果が出ない。ある夜、こっそり寮を自転車で抜け出した。一晩中ペダルをこいで、実家にたどり着いたのは午前4時だった。突然、帰ってきた息子に驚いた父親は、事情を聞いた後、Bくんを説得して寮に連れて戻った。「今ならまだ、朝練に間に合う。」

勝負の夏がやって来た。気合を入れなおしたBくんは、限界に挑戦する決意をする。親にねだって、新しいレースシューズやウェアを買ってもらった。家族はもちろん、彼の可能性を信じた。しかし、そのシューズやウェアが日の目を見ることはなかった。合宿所で監督に呼ばれて、戦力外であることを通告される。ただ、人柄を買われて、マネージャーをやるようすすめられた。周囲の期待や励まし、希望に燃えた高校生活、そして何より自分が今まで積み重ねてきた陸上への愛着がすべて、音をたてて崩れていくように感じた。

Bくんの父親は、初めて息子と心を割って話した。「自分の好きなことができなくなったからといって、辞めてしまうことは簡単だ。だが、まだマネージャーという選択肢が残された。やってみもしないで辞めるのは、逃げるのと同じことだ。マネージャーとして働いてみて、仕事内容をきちんと理解した上で辞めるのなら俺は何も言わない。そうすればそれは、『逃げた』ということではなく、自分の進むべき道を『選択した』ということになる。」

生来、ひとつのことに打ち込む性格のBくんは自分に与えられた仕事をきちんとこなすようになった。どうすればチームメイトが気持ちよく走れるのか研究も怠らない。ジュニア強化練習で、事情を知らない中学生が、当然のようにBくんからドリンクを受け取り、礼も言わずに容器を返しても少しも腹を立てることなく、役目を果たす。

朝練は6時にスタート。選手達の消灯も当然早い。しかしBくんの仕事は終わらない。選手達を起さぬよう気を使いながら、記録の整理・分析をしないといけない。寮の中で電気がついているのは玄関先だけだ。部屋の灯りは点けられない。冬でもこれだけは欠かすわけにはいかない。

転機が訪れる。高校生あこがれの大会、インターハイ。全国各地から鍛えに鍛えたトップレベルの競技者が集う。会場には多くの大学や実業団のスカウトも集結する。優秀な選手を勧誘するのだ。Bくんは親に2度目のおねだりをする。「実費でインターハイに行かせてほしい。お金はかかるが、インターハイには、選手だけでなく、優秀なマネージャーをスカウトしに来る大学がある。その人たちの眼に自分がどう映るのか試してみたい。」

Bくんを認めた大学があった。彼の献身的な働きが認められ、箱根駅伝にも出場するC大学がマネージャーとして迎えることになった。本心は走りたい。でも、部のマネージメントをすることは、誰のためでもなく、自分自身のためだと考えることができるようになった。社会に出れば、辛いこと、きついことはもっとたくさんある。その時のために自分は勉強をさせてもらえる場が与えられたのだ、とも思う。

しみじみと父親は言う。「逃げるようにして帰って来た時は、かわいそうでたまらなかった。しかし、敢えて厳しい道に挑むことを親としてすすめた。あの時はまだ子どもだったが、今はもう、親を超えたように感じる。」

先日、元気な足どりでロードをランニングするBくんを見かけた。中学のときと変わらず、「走るのが大好き」と、いう顔だった。